大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)3976号 判決 1987年1月27日
原告
もず石材センターこと
上田實
右訴訟代理人弁護士
丸山英敏
同
横田保典
被告
株式会社住友銀行
右代表者代表取締役
花岡信平
右訴訟代理人弁護士
川村俊雄
被告
株式会社大和銀行
右代表者代表取締役
安川澄夫
右訴訟代理人弁護士
網本浩幸
同
井上圭吾
同
待場豊
被告
奈良信用金庫
右代表者代表取締役
糸谷精己
右訴訟代理人弁護士
米田実
同
辻武司
同
松川雅典
同
四宮章夫
同
田中等
同
田積司
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告住友銀行は、原告に対し、金八三六万二三七三円及びこれに対する昭和六〇年六月七日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告大和銀行は、原告に対し、金四六四万五〇二一円及びこれに対する昭和六〇年六月七日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 被告奈良信用金庫は、原告に対し、金三三〇万九〇一円及びこれに対する昭和六〇年六月七日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告らの負担とする。
5 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 被告住友銀行
(一) 原告の被告住友銀行に対する請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
2 被告大和銀行
(一) 原告の被告大和銀行に対する請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
3 被告奈良信用金庫
(一) 原告の被告奈良信用金庫に対する請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告の手形債権
(一) 訴外有限会社淀川オイル(以下「訴外淀川オイル」という。)は、別紙約束手形目録1記載の約束手形四通を振り出した。
(二) 訴外陽弘産業こと澤村禎一(以下「訴外澤村」という。)は、同目録2及び3記載の約束手形合計六通を振り出した。
(三) 原告は、同目録1ないし3記載のとおり裏書の連続がある右各目録記載の約束手形合計一〇通の所持人であつた。
2 原告は、訴外木津信用組合に対し、右の約束手形一〇通を、取立委任の目的で裏書した。
3 各約束手形の支払呈示
(一) 訴外木津信用組合は、別紙約束手形目録1記載の約束手形四通を、各手形の満期に、それぞれ支払場所に呈示した。
(二) 訴外木津信用組合は、同目録2記載の約束手形四通を、各手形の満期に、それぞれ支払場所に呈示した。
(三) 訴外木津信用組合は、同目録3記載の約束手形二通を、各手形の満期に、それぞれ支払場所に呈示した。
4 右支払呈示に対する被告らの支払拒絶
(一) 被告住友銀行は、不渡事由を「裁判所の仮処分決定」として、別紙約束手形目録1記載の約束手形四通の支払いを拒絶した。
(二) 被告大和銀行は、不渡事由を「神戸地方裁判所龍野支部五八年(ヨ)第一九号仮処分命令」として、同目録2記載の約束手形四通の支払いを拒絶した。
(三) 被告奈良信用金庫は、不渡事由を「支払禁止の仮処分決定」として、同目録3記載の約束手形二通の支払いを拒絶した。
5 原告の手形金取得の逸失
(一) 原告は、右4の(一)の支払拒絶により、満期における支払呈示による別紙約束手形目録1記載の約束手形四通の手形金の取得ができなかつた。
(二) 原告は、右4の(二)の支払拒絶により、満期における支払呈示による同目録2記載の約束手形四通の手形金の取得ができなかつた。
(三) 原告は、右4の(三)の支払拒絶により、満期における支払呈示による同目録3記載の約束手形二通の手形金の取得ができなかつた。
6 被告らの責任
(一) 被告住友銀行について
(1) 被告住友銀行は、前記4の(一)の各支払拒絶をした際、訴外淀川オイルとの間で、訴外淀川オイルが振り出した約束手形の支払い事務の委託を含む当座勘定取引契約を締結していた。
(2) 被告住友銀行は、津地方裁判所松阪支部から次のとおりの支払禁止仮処分の決定を受けた。
債権者 訴外淀川オイル
債務者 訴外山本商事こと山本永吉
第三債務者 被告住友銀行
主文
債務者は、別紙約束手形目録1記載の約束手形の取立てまたは裏書譲渡その他一切の処分をしてはならない。
第三債務者は、右約束手形に基づき支払いをしてはならない。
(3) 右の仮処分は、仮処分の当事者ではない原告及び訴外木津信用組合には効力がおよばないから、被告住友銀行は、訴外木津信用組合の前記3の(一)の支払呈示に対し、支払いをしなければならず、仮に同被告に預けられている訴外淀川オイルの当座預金の残高が手形の決済資金として不足していた場合には、不渡事由を「資金不足」としなければならなかつたのに、同被告は前記4の(一)の不渡事由で支払いを拒絶した。
(二) 被告大和銀行について
(1) 被告大和銀行は、4の(二)の各支払拒絶をした際、訴外澤村との間で、訴外澤村が振り出した約束手形の支払い事務の委託を含む当座勘定取引契約を締結していた。
(2) 被告大和銀行は、神戸地方裁判所龍野支部から次のとおりの支払禁止仮処分の決定を受けた。
債権者 訴外澤村
債務者 訴外楠木正勝
第三債務者 被告大和銀行
主文
債務者は、別紙約束手形目録2記載の約束手形の取立てまたは裏書譲渡その他一切の処分をしてはならない。
第三債務者は、右約束手形に基づき支払いをしてはならない。
(3) 右の仮処分は、仮処分の当事者ではない原告及び訴外木津信用組合には効力がおよばないから、被告大和銀行は、訴外木津信用組合の前記3の(二)の支払呈示に対し、支払いをしなければならず、仮に同被告に預けられている訴外澤村の当座預金の残高が手形の決済資金として不足していた場合には、不渡事由を「資金不足」としなければならなかつたのに、同被告は前記4の(二)の不渡事由で支払いを拒絶した。
(三) 被告奈良信用金庫について
(1) 被告奈良信用金庫は、4の(三)の各支払拒絶をした際、訴外澤村との間で、訴外澤村が振り出した約束手形の支払い事務の委託を含む当座勘定取引契約を締結していた。
(2) 被告奈良信用金庫は、神戸地方裁判所龍野支部から次のとおりの支払禁止仮処分の決定を受けた。
債権者 訴外澤村
債務者 訴外楠木正勝
第三債務者 被告奈良信用金庫
主文
債務者は、別紙約束手形目録3記載の約束手形の取立てまたは裏書譲渡その他一切の処分をしてはならない。
第三債務者は、右約束手形に基づき支払いをしてはならない。
(3) 右の仮処分は、仮処分の当事者ではない原告及び訴外木津信用組合には効力がおよばないから、被告奈良信用金庫は、訴外木津信用組合の前記3の(三)の支払呈示に対し、支払いをしなければならず、仮に同被告に預けられている訴外澤村の当座預金の残高が手形の決済資金として不足していた場合には、不渡事由を「資金不足」としなければならなかつたのに、同被告は前記4の(三)の不渡事由で支払いを拒絶した。
よつて、原告は、別紙約束手形目録1ないし3記載の各約束手形の手形金から、訴外澤村との示談に基づき同人より受領済みの金員を按分して控除した残額について(右示談に要した諸費用については、本訴では請求しない。)、不法行為による損害賠償請求権に基づき、被告住友銀行に対し、金八三六万二三七三円、被告大和銀行に対し、金四六四万五〇二一円、被告奈良信用金庫に対し、金三三〇万九〇一円及び右各金員に対する訴状送達の日の翌日である昭和六〇年六月七日から支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 被告住友銀行の請求原因に対する認否及び主張
1 請求原因1の(一)、(三)(ただし、そのうち別紙約束手形目録1記載の約束手形について。)及び2(ただし、そのうち同目録1記載の約束手形について。)の事実は知らない。
2 同3ないし5の各(一)及び6の(一)の(1)、(2)の事実は認める。
3 同6の(一)の(3)の事実は否認する。
4 訴外淀川オイルの代表取締役佐藤泰正は、被告住友銀行に対し、別紙約束手形目録1記載の約束手形について、裁判所から支払禁止の仮処分を得たので、これらについて手形金の支払いをせずに不渡返却してほしい旨申し入れた(支払委託の撤回の通知)。
5 右の各約束手形が呈示されたときの、訴外淀川オイルの被告住友銀行の当座預金の残高は、いずれのときも、右手形の手形金額以下であつた。
三 被告大和銀行の請求原因に対する認否及び主張
1 請求原因1の(二)、(三)及び2(ただし、いずれもそのうち別紙約束手形目録2記載の約束手形について。)の事実は知らない。
2 同3ないし5の各(二)及び6の(二)の(1)、(2)の事実は認める。
3 同6の(二)の(3)の事実は否認する。
4 訴外澤村は、被告大和銀行に対し、別紙約束手形目録2記載の約束手形について、裁判所から支払禁止の仮処分を得たので、これらについて手形金の支払いをせずに不渡返却してほしい旨申し入れた(支払委託の撤回の通知)。
5 右の約束手形が呈示されたときの、訴外澤村の被告大和銀行にある当座預金の残高は、いずれのときも、右手形の手形金額以下であつた。
四 被告奈良信用金庫の請求原因に対する認否及び主張
1 請求原因1の(二)、(三)及び2(ただし、いずれもそのうち別紙約束手形目録3記載の約束手形について。)の事実は知らない。
2 同3ないし5の各(三)及び6の(三)の(1)、(2)の事実は認める。
3 同6の(三)の(3)の事実は否認する。
4 訴外澤村は、被告奈良信用金庫に対し、別紙約束手形目録3記載の約束手形について、裁判所から支払禁止の仮処分を得たので、これらについて手形金の支払いをせずに不渡返却してほしい旨申し入れた(支払委託の撤回の通知)。
5 右の各約束手形が呈示されたときの、訴外澤村の被告奈良信用金庫にある当座預金の残高は、いずれのときも、右手形の手形金額以下であつた。
五 被告らの主張に対する認否
被告らの各主張4、5は知らない。
第三 証拠<省略>
理由
一1 請求原因1の(一)の事実は、<証拠>により認められる。
2 同1の(二)の事実について判断するに、<証拠>によれば、別紙約束手形目録2及び3記載の約束手形は、訴外澤村の営業(陽弘産業の名称で行つている。)について経理を担当し、同人から手形振出の代行権を与えられた訴外豊沢が振り出したことが認められる。
3 同1の(三)の事実は、<証拠>により認められる。
二同2の事実は、<証拠>により認められる。
三同3ないし5の各(一)ないし(三)の事実及び同6の(一)ないし(三)の各(1)、(2)の事実は当事者間に争いがない。
四同6の(一)ないし(三)の各(3)の事実について判断する。
請求原因6の(一)ないし(三)の各(2)の仮処分は、いずれも、文言上は、第三債務者である被告らに対し、手形の呈示者が仮処分債務者である場合に限定せずに支払いを禁止しているが、これらの仮処分による支払禁止の効力が及ぶのは仮処分債務者が手形を呈示した場合に限定されると解するべきである。
しかし、本件各仮処分の効力が右のとおりであるとしても、本件各仮処分は、文言上は、手形の呈示者が仮処分債務者である場合に限定せずに支払いを禁止していること、被告らが請求原因4の各支払拒絶をしたときには、支払拒絶をした被告らの支店が所属する各手形交換所規則で、このような仮処分が送達されているときの不渡事由をどのようなものにするかについて明確な定めがなかつたこと(前記甲第一ないし第一〇号証並びに成立に争いのない乙第一、第二号証及び丙第一、第二号証により認定)、本件各手形が呈示されたときの被告らに預けられていた訴外淀川オイル又は訴外澤村の当座預金の残高は、いずれのときも右各手形を決済するには不足していたこと(弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第三号証、丙第三号証の一ないし四及び丁第一号証並びに証人佐藤及び同澤村の各証言により認定。)、被告らは、前記認定のとおり、訴外淀川オイル又は訴外澤村との間で当座勘定取引契約を締結していただけで、原告に対して本件各手形の手形金債務を負担していたわけではないこと、また、原告は、被告らの本件各支払拒絶によつて、満期における支払いを受けられなくても、本件各手形の手形金債権自体を失うものではなく、直接振出人に対して請求することができることを総合考慮すれば、結局本件各手形は資金不足の理由により不渡処分を受けることが確実であり、被告らが本件各支払拒絶をするにあたつて、不渡事由を「裁判所の仮処分決定」などとしたことが適切であつたかどうかという問題は別にして、違法であるとまではいえないし、また、手形交換所の交換による支払いを受けられなかつたとしても、特段の事情のないかぎり、これにより支払いを受けることができなかつた本件各手形の額面相当額の損害が原告に対して、ただちに生ずるものでもない。
五結論
よつて、本訴請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官小北陽三 裁判官辻本利雄 裁判官長谷川恭弘)